2024年3月24日
借りている⼈が強い?賃借権・借地借家法について
将来に向けた資産形成のための手段として、不労所得を得られる不動産投資はとても賢い選択です。
しかし、正確な不動産の知識を付けていなければ、自分の所有する物件でありながら借り手側である入居者の意思や要望が優先され、思い通りの運用ができないケースがあります。
貸主と借主の義務や権利を規定する「借地借家法」を正しく理解することで、トラブルが未然に回避できます。借地借家法は範囲が広いため、今回は「不動産投資」を成功させるための貸主観点から解説していきましょう。
この記事で分かること
- 「賃借権」「借地借家法」の概要や考え方
- 貸主・借主それぞれの義務と権利
- 賃貸契約でよくあるトラブル・解決法のまとめ
賃借権の基本: 概念と借り⼿の権利
賃借権とは、所有者(貸主)と借り手(借主)が合意して締結される賃貸借契約に基づき、賃借人が対象物の使用を認められる権利のことです。一般的に不動産の賃貸では、借り手が所有者へ賃料を支払うことで、契約条件の範囲内において不動産(土地・建物)の使用を許可されます。
賃借権は、あくまで「借りる権利」に限定されているため、所有者の許諾がない限り、借り手は自由に第三者へ転貸・譲渡、また建て替え・増築を行うことはできません。
借地借家法の概要: 法律の⽬的と主要な規定
借地借家法はもともと明治時代より施行されていましたが、1992年8月1日に改定された「土地と建物の賃貸借」に関する法律です。1992年7月31日以前の法律を「旧法(または借地法)」、1992年8月1日以降の法律を「新法(または借地借家法)」と呼び分けています。
注意点は、旧法が適用時に締結した賃貸借契約は、新法が施行された後に契約の更新がされても、旧法の規定が適用されることです。借地借家法が適用されるのは主に下記2つの場合です。
1. 建物の所有を目的として土地を借りるとき(借地) 2. 建物を借りるとき(借家) |
日本の民法で規定される「賃貸借契約」では借主側が不利になり、反対に「旧法」では「一度貸した土地は帰ってこない」と言われるほど、借主側が有利になる内容でした。
貸主・借主双方の権利保護・平等を目的として、現在の借地借家法が制定・公布されたのです。
借地借家法の主要項目には、契約に関する「期間」「更新」「解除」「解除の通知」の規定がされていますが、特に重要な内容は以下の2つです。
1. 存続期間の制約 最初の契約時は借地期間を30年とし、1回目の更新後は20年、2回目の更新後は10年とする。最初の契約で30年未満と定めた場合、自動的に30年となる。 2. 更新拒絶の制約 貸主側から立ち退きを求めるには、正当事由がなくてはならない |
1は、中古戸建などで不動産投資を行う場合に該当します。
賃借⼈の保護: 借地借家法における借り⼿の強み
借地借家法では貸主・借主の平等を目的としますが、「立ち退きの強要」や「契約更新の拒絶」から賃借人の生活を守る側面が強くあります。
- 契約は原則「更新」を可能とする
- 賃料増額には合理的な理由を要する
- 契約期間の下限は1年以上とする
上記3つは貸主にとって特に重要な点です。一度賃貸すると借り手側の生活保護が優先されてしまい簡単に契約の解除ができず、自己の所有する不動産でも自由に扱えなくなります。
家賃の⽀払いと更新: 家賃さえ⽀払っていればいい?更新料は必ずもらえる?
賃貸契約における更新は、「合意更新」と「法定更新(自動更新)」の2種類があり、更新料についてはケースバイケースです。
合意更新は主に借地の場合で、先述の「最初の契約時は30年、1回目の更新後は20年、2回目の更新後は10年」といった「更新時」に用いられます。一般的な区分マンション・一棟アパートの賃貸契約で用いられるのは「法定更新」です。
更新料は、契約を続けるための対価とする性質を持っており、自動で契約が継続される「法定更新」では更新料が請求できないので注意しましょう。
ただし、契約内容に特約で更新料の支払いを定めることは違法ではありません。
いずれにしても更新料のトラブルを防ぐには、「合意更新」と「法定更新」両方の取り決めを明確にし、具体的に「契約期間満了時、賃料〇ヵ月分の更新料支払い義務が発生する」というような旨を契約書に記載しておきましょう。
明渡しと⽴ち退き: 退去の際の賃借⼈の権利と義務。普通に退去する場合と、不払いで追い出す場合について
賃貸借契約は通常、契約で定められた期間内に借主が退去の旨を申し出て、期日までに明け渡しを行います。貸主からの申し出による立ち退きは正当事由がある場合に限り、契約満了日の6ヵ月~1年前に更新拒絶の通知をすることで認められます。
正当事由に該当するのは、「建物の老朽化による取り壊しや改築のため」「賃貸人が困窮している状況で、売却で生活資金を得るため」などの理由です。
正当事由の認可は総合的な状況を加味して判断されますが、貸主は借主の引っ越し代など、次の住居を用意する補償として「立退料」の支払いが必要になります。
賃料の不払いが発生した場合、賃貸借契約書ではよく「賃料の支払いを1ヵ月でも怠った場合、催告なく直ちに契約解除ができる」という趣旨の条文が記載されています。
しかし、契約の強制解除には「貸主と借主の信頼関係が破壊されていること」が前提です。「信頼関係の破壊」は定義付けが難しく、実際に追い出すには数ヵ月は必要と考えておきましょう。
敷⾦と保証⾦: 保証措置の理解と管理。敷⾦から引けるもの、引けないもの。
賃貸借契約では契約時の担保として、借主が貸主へ敷金・保証金を支払うことがあります。これは不払いの家賃に補填したり、退去時の原状回復に充当したりします。
2つは似た意味を持ちますが、保証金は主に関西地方で求められる費用で、独自の慣習・取り決めにより敷金と同様に補填・充当されない可能性があるので、注意しておきましょう。
敷金の相場は賃料の1~2ヵ月程度ですが、保証金は賃料の3~6ヵ月程度と高い傾向にあるのも1つの特徴です。敷金や保証金は物件を売却しても、賃貸借契約が継続していれば次の所有者へと引き継がれます。
通常の使用で生じた「自然損耗」や、古くなるにつれて損傷した「経年劣化」は、借主に修繕義務が発生しないのが基本の考え方です。これらの想定される範囲を超えた部分、また借主の故意・過失で生じた損傷部分に対して借主は原状回復の義務を負い、貸主は敷金・保証金から差し引くことができます。
退去後のクリーニング費用は、原則「貸主負担」です。原状回復については、国土交通省のガイドラインに考え方や取り決めが記載されていますので、一度確認してみるとよいでしょう。
賃貸契約のトラブルと解決法: よくある問題とその対応
国民センターでは毎年約3万件以上の賃貸マンション、アパートによる相談・苦情が寄せられています。不動産投資を行ううえで知っておきたい、実際によくあるトラブル事例をまとめました。
【入居申込時のトラブル】 ・契約前なのにキャンセル料を請求された ・契約日が1ヵ月以上先なのに、契約金の請求をされる ・募集時に掲載されていなかった追加費用を請求された |
不動産投資において、上記の業務は委託する「不動産管理会社」が対応するため、借主・貸主が直接トラブルとなるのは稀ですが、貸主も入居までの流れを把握しておくとよいでしょう。
ちなみに、賃貸物件への申込があっても、「入居審査中」はキャンセルが可能で、キャンセル料は発生しません。しかし、契約締結前でも「貸主および借主双方の合意」があれば「契約成立」とみなされ、違約金としてキャンセル料を請求する不動産会社もあります。
【入居中のトラブル】 ・入居してみたら部屋が汚い ・備え付けの設備が壊れている(壊れた) ・水漏れ、雨漏りしている |
クリーニングや原状回復が不十分というクレームは、貸主の耳に入ることは少なく、入居直前に室内を見に行くことが有効です。
備え付けの設備が壊れた際には、退去の直接的な要因となる可能性があるため、迅速に対処しましょう。また、水漏れや雨漏りも被害が拡大する前に管理会社の素早い対処が求められます。
【退去時のトラブル】 ・高額の退去費用を請求される ・短期解約の違約金を請求された ・自分が入居する前の傷に対して修繕の請求をされた |
最も多いトラブルは、退去時のトラブルです。
家から投資物件まで行ける距離であれば、不動産会社に依頼して一緒に退去後の室内を確認し、借主への請求内容も見ておくとよいでしょう。
また、短期解約による「違約金」は契約書に記載があれば請求できますが、「前の入居者が付けた損傷」の修繕費を誤って請求してはいけません。この問題を防ぐには、入居前にくまなく損傷箇所をチェックし、写真に残しておくことが重要です。
不動産投資と借地借家法
不動産投資において、「借地」の制度は関係ないケースが多いでしょう。なぜなら、不動産投資で運用する物件は、「区分マンション」「一棟アパート」の賃貸物件が多く、「借地」で適用となる「一戸建て」「一棟マンション」の運用は稀だからです。
不動産投資では空室の発生を抑え、できる限り長く住んでもらうことが目的です。そのため、借地借家法の制度で、一定期限付きで貸し出す「定期建物賃貸借契約」も使う機会がほとんどないと言えます。正当事由がない限り契約解除ができないことを念頭に置き、建物の老朽化、取り壊しを検討する段階で「定期建物賃貸借契約」を上手に取り入れてください。
本記事で解説した内容をふまえ、貸主として懸念される項目の対策をしておきましょう。
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