2024年3月24日
所有権とは?民法上の意味や動産と不動産の違いをわかりやすく解説
所有権は、特定の物を自由に使用・収益・処分できる権利で、物を直接的・排他的に支配する「物権」の代表例です。不動産も当然所有権の対象となりますから、不動産投資を行ううえで知っておくべき知識といえます。
この記事で分かること
- 所有権は特定の物を自由に使用・収益・処分する権利
- 売買や贈与などの原因に基づいて人から人へ権利が移転する
- 動産と不動産では主張できる要件が異なる
所有権とは物を支配する権利
所有権とは、法律のもとにある特定の物を自由に使用・収益・処分する権利のことです。民法第206条では、以下のように定めています。
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。 |
ある物を直接的・排他的に支配する権利である「物権(ぶっけん)」の1つで、私たちの生活に密着した非常に重要な権利といえます。
所有権の特徴
所有権は「法令の制限内であれば、その権利を持つものが自由にその対象物を使用したり、それによって収益を得たり、処分したりできる」とされ、時効により消滅することもない強い権利といえます。
ただし、すべての権利に優先されるわけではなく、公共の福祉などによって一定の制限が加えられる可能性がある点を知っておかなければなりません。例えば所有する土地を公共事業のために供出するようなケースがその例です。
収用に対する補償を受けることができるものの、所有権の主張によって事業を妨げることまではできないのです。
動産と不動産の所有権の違い
所有権は車や貴金属など高額な品物だけでなく、例えば米1粒であっても生じる権利です。同様に土地や建物などの不動産にも生じます。ただし動産と不動産では、法律上の取扱いが大きく異なる点には注意が必要です。
動産の所有権の取得に必要な要件は、「占有」とされています。
ある人が時計を購入したとしましょう。代金を払ってその時計を受け取った時点で、その時計の所有権は売った方から買った方に移転します。
しかし不動産の場合、対象物を占有しているだけでは第三者に対して「所有者である」と主張することができません。
仮に、売主がAさんとBさん2人に対して売買契約を結んだ場合を想定してみましょう。このケースでは、登記をした人がその土地の所有権を主張できます。
Aさんが登記を完了したのであれば、その土地の所有者はAさんです。所有権を得ることができなかったBさんは、売主に対して損害賠償を求めるなどの手段を講じなければならないのです。
所有権の移転とは?
あるものの所有権を得る場面といえば、売買や交換、贈与、相続などによって、元の持ち主から権利を取得するのが一般的でしょう。これが所有権の移転です。
一般的に所有権が移転するケースに関して、詳しくみていきましょう。
売買・交換
所有権移転の代表的な要因が売買です。お店で品物を購入した場合、代金と引き換えにお店が持っていた品物の所有権を取得します。
不動産でも同様です。
例えば売主が所有する土地を1,000万円で購入する場合、代金と引き換えにその土地の所有権を取得します。ただし前述の通り、不動産の所有権は登記がなければ第三者に主張することができませんから、所有権の取得に合わせて登記簿上の所有者を売主から買主に変更しなければなりません。これが所有権移転登記です。
なお、交換の場合も同様です。売買は交換の一形態といえ、特定のものと交換する代替品がお金であるに過ぎません。
これらの所有権移転は双方の合意によって成立するものです。しかし中には「脅迫によって無理やり売らされた」などの特殊なケースが生じる可能性もあり、このような特殊な事例に関しても民法に定めがあります。
相続・贈与
人が亡くなると、その方が所有していた財産は民法に定める順位に基づいて親族に権利が移されます。これが相続です。
亡くなった方が所有していたお金や不動産などはもちろん、借金を返済する義務なども含めて包括的に権利・義務が移転するのが相続の特徴です。
相続は人の死亡を契機に発生するものですが、所有者の意思によって対象物の所有権を移転するのが贈与です。
自分の家を建てたい子に対して、親が自宅の敷地の一部を分け与えたとしたら、これが贈与にあたります。
ただし贈与に関してはさまざまな形態があり、相続と同様に「自分が亡くなったら贈与する」という方法である「遺贈」、「財産を贈与する代わりに仕事を手伝ってもらう」のように贈与する相手に負担を課す「負担付き贈与」など、一定の条件を加えたものも贈与の一種です。
なお、売買や交換、贈与が「当事者間の合意」によって成立する一方で、相続は「人の死」を契機に必ず発生するものです。つまり、所有権移転の発生原因の中でも特別なものといえます。
このため相続による所有権の移転に関しては、法律によってさまざまな規定があります。こちらの記事を参考に、相続手続きへの理解を深めることをおすすめします。
【関連記事】相続にまつわる手続きとは?重要な期限やトラブル対策も詳しく解説
移転以外の所有権の取得
すでに所有者がいるものの所有権は、移転によって取得する形ですが、そもそもの所有者がいないケースもあるでしょう。また、所有者がいる対象物が組み合わさることによって、新たな物が生み出されるケースも考えられます。
このような場合に所有権についても、民法において規定されているのです。
所有者がいないものの原始取得
もともとその対象物に所有者がいないものを取得した場合には、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得します。これが原始取得です。分かりやすい例は狩りや漁で得た獲物でしょう。
ある人が海で魚を釣った場合、もともとその魚には所有者がいません。釣った人が初めての所有者となり、食べるなり市場で売るなり、自由に使うことができます。不要だと思ったら海に帰すことも自由です。これが原始取得の一形態といえます。
ただしこれは、あくまでも動産に限って認められた規定です。民法第239条には、以下のように定められています。
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。2.所有者のない不動産は、国庫に帰属する。 |
つまり、日本国内の不動産は国も含めて必ず誰かの所有となっており、このような原始取得はあり得ないことを意味しています。
時効取得
取得時効は、所有の意思をもって対象物を一定期間占有したとき、その対象物の所有権を取得できるという制度です。
所有権は、その対象物が存在する限り永久的に存続するもので、消滅時効にかかりません。しかし、第三者が取得時効によってその対象物の所有権を原始取得した場合には、もとの所有者の権利が消滅します。
時効に要する期間は占有を開始した時点の占有者の認識によって異なり、自分のものだと思っていた場合は10年、他人のものと知っていた場合は20年です。
Aさんが隣地のBさんの敷地の一部を自分の土地だと思い込み、物置小屋を建てて使用していた場面を想定してみましょう。
Aさんは占有を開始した時点で自分のものだと思っている状態ですから、そのまま10年使い続ければ取得時効が成立します。一方で、Aさんはその土地がBさんの所有であると知っていながら、Bさんに内緒で物置小屋を建てた場合には、時効の成立には20年を要します。
ただし、AさんがBさんに対して「物置小屋を建てたいので土地を使わせてください」と断って建てた場合などは、所有の意思が認められないため取得時効は成立しません。
添付(付合・混和・加工)
添付とは、ある物が加工されて新しいものが生み出された場合などに生じる所有権の取得方法です。民法では、「付合」「混和」「加工」の3種が定められています。
添付の種類 | 内容 | 例 |
付合 | 複数のものが結合して全体として分離不可能となった状態 | Aさん所有の椅子にBさん所有のひじ掛けを付けて完成させた |
混和 | 液体などが分離できなくなった状態 | Cさん所有のポン酢とDさん所有の醤油を混ぜてポン酢醤油になった |
加工 | ある物を加工して別のものが生み出された状態 | Eさん所有の木材をFさんが加工して椅子が完成した |
これらの場合には、その成果物の材料となったものを提供した人が所有者になるのが原則的な考えです。付合の場合には椅子本体を供出したAさん、混和の場合はその割合の多い方、加工の場合は材料を提供したEさんの所有となるのが一般的といえるでしょう。
しかし、「加工によって価値が著しく上がったときは、加工者が所有権を取得する」など、さまざまな規定があります。
ただし、これらはあくまでも動産に対する考え方です。不動産に対する添付の場合は、原則的に不動産の所有者がその権利を得ます。
例えばGさん所有の家の塀に著名な美術家が絵をかいて価値が著しく上がったとしても、その美術家は家の所有権を取得しません。
所有権の特殊な形態
所有権は、その対象物を「排他的に」使用できる権利ですが、その権利自体を1人が独占しているとは限りません。複数人が所有権自体を共有しているケースもあり得るからです。
特に知っておかなければならない不動産に関する所有権の特殊な形態は、共有と区分所有の2つです。
共有
共有とは、複数人が共同で同一の対象物を所有することです。所有権を共有する場合は、その持分に応じて使用・収益に充てるのが一般的な形といえるでしょう。「排他的に利用できる権利」を複数人が所有している状態のため、他の1人の共有者が他の共有者の権利までを阻害して独占するのは、他の権利者を侵害することになるからです。
同様に、対象物全体を処分することは、1共有者が持つ権利の範囲を逸脱すると考えるのが通常です。仮に対象物を丸ごと売却しようと思ったら、共有者全員がそれに合意しなければなりません。
不動産における共有では、持分の割合を明確にして登記しなければなりません。また、自身が持つ持分だけを処分したり、対象物の分割を請求する権利も認められます。
区分所有
それぞれ区分けされた所有権の対象物が、集合体となって全体を構成する仕組みが区分所有です。各部屋ごとに所有者が異なり、それが集まって1棟のマンションを形成している分譲マンションを例に挙げれば分かりやすいでしょう。
このように1棟の建物を区分けし、それぞれに所有者がいる建物を「区分所有建物」といい、その所有者を「区分所有者」といいます。
所有権の対象となる区分けされた単位は「専有部分」と呼ばれ、共有とは異なり独立した所有権の対象物です。このため区分所有者は、その対象を自由に使用・収益・処分することができます。
区分所有はマンションなどだけに使われる特殊な権利形態です。詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
【関連記事】区分所有とは?マンション投資のポイントや登記簿の特徴も解説
所有権を侵害された場合の権利
所有権は排他的に使用・収益・処分ができる権利であるため、それが妨げられたときには、対象物の返還を求める権利なども認められています。
所有権を侵害された当事者に発生する権利は対象物の返還や妨害の排除・予防などのほか、侵害による損害の賠償請求、侵害者が得た不当利得の返還請求などが挙げられます。
物権的請求
所有権が侵害されている状態を回復させるなど、その権利自体を保全するために認められた権利が「返還請求権」「妨害排除請求権」「妨害予防請求権」などの物権的請求権です。
返還請求権は「対象物が盗まれたときに、加害者に物の返還を求めることができる」といった基本的な権利です。「自分の土地を占拠されているときに、明け渡しを求める」なども同様といえるでしょう。
妨害排除請求権・妨害予防請求権は、所有権を有する対象物の使用に支障が出る行為をやめさせたり、支障が出る前にその要因を取り除くことを求められる権利です。
「自分の土地の出入口をふさいでいる車の移動を請求する」などが妨害排除請求で、「隣の塀が崩れそうで、それによって自宅が損傷する恐れがあるため、塀の修理や除却を請求する」などが妨害予防請求に該当します。
損害賠償請求・不当利得返還請求
損害賠償請求・不当利得返還請求は、所有権の侵害によって所有者に生じた損失や、侵害した側が不当に得た利益を本来の権利者が取り戻すための請求のことを指しています。
所有権の侵害という不法行為によって生じた損害の補填を求めるのが損害賠償請求、不法行為によって得た利益の返還を求めるのが不当利得返還請求です。
物権的請求のような「所有権そのものを保全する権利」とは異なり、侵害によって生じた不利益を回復させる権利といえます。
所有権のように誰に対しても主張できる権利ではなく、被害を生じさせたり正当でない利益を受けた相手に対してだけ効力が生じる「債権」と呼ばれる権利の1種です。
権利の意味を知って不動産投資に役立てよう
不動産投資は「不動産の所有権に基づく収益」で成立する事業といえ、その根幹となる所有権の意味を正確に認識しておくことはとても大切です。
所有権の意味や侵害された場合の対策だけでなく、その派生形態ともいえる共有や区分所有についても正しい知識を持って不動産投資に役立てましょう。
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