遺産分割とは?手続きの流れや協議を円滑に進める対策を解説

遺産分割とは、相続開始によって相続人全員の共有となっていた遺産を、現実に相続人に分配する手続きです。財産によっては物理的な分割が難しいものもあるため、財産の種類や相続人の関係に応じて、それに適した分割方法を選択しなければなりません。

この記事で分かること

  • 遺産分割とは、相続財産を複数の相続人で現実的に分配する手続き
  • 財産の種類や相続人の関係に応じて、それぞれに適した分割方法がある
  • 遺産分割には期限がないが、関連する手続きのスケジュールに注意が必要

遺産分割とは?

遺産分割とは、相続財産を複数の相続人に分配する手続きです。

相続が発生すると、相続財産はすべての相続人が共有している状態になります。現金や不動産などのプラスの財産はもちろん、借金などの負債も含めて「法定相続分」に応じた割合による共有です。

しかし現実的に遺産を活用するには、「現預金は相続人3人で分け合う」「不動産は相続人Aさんが受け取る」など、財産ごとに分配しやすい方法を考えなければなりません。

このように、亡くなった方が残した相続財産を、相続人同士で現実的に分け合うのが遺産分割という手続きです。

法定相続分とは?

法定相続分とは、相続財産の分け方の基本として民法第900条に定められた割合です。配偶者と子どもが相続人になった場合、子どもだけが相続人になった場合など、相続人の関係によって定められています。

これはあくまでも原則に過ぎませんから、相続人同士の合意があれば全く異なる分け方でも構いません。

例えば父親が亡くなって母親と子ども2人が相続人になった場合、法定相続分通りに分割すれば母親の権利は1/2、子どもの権利はそれぞれ1/4ですが、「母親にすべての財産を譲る」などのケースもよく見られる事例です。

法律に固執する必要はなく、相続人同士の関係や財産の内容に応じて、適切な分割方法を考えましょう。

なお、相続人の関係による法定相続分は次の表のとおりです。

法定相続人の組み合わせ配偶者の割合他の相続人の割合
配偶者と子1/2全員で1/2
配偶者と被相続人の親2/3全員で1/3
配偶者と被相続人の兄弟3/4全員で1/4
e-Gov法令検索:民法第900条

遺産分割の3つの方法

相続財産には、被相続人が所有していたすべての財産が含まれます。現金などは複数人でも分割しやすい財産といえますが、例えば不動産などは物理的な分割が困難です。

遺産分割では、相続財産の特性に応じて「現物分割」「換価分割」「代償分割」という3つの分割方法が用いられます。

名称分割方法具体的な例
現物分割相続財産をそのまま分割する方法現金や預貯金を分ける
現金を相続人Aが、不動産をBが相続する
土地を2分割して相続人AとBで分け合う
換価分割財産を売却して代金を分割する方法自動車を売却して現金を分ける
不動産の共有持分を共有者に買い取ってもらい、代金を分ける
代償分割特定の財産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う方法不動産を相続した相続人Aが、もう1人の相続人Bに対して不動産の評価額の半額を支払う

遺産分割の手続きの流れ

相続では、遺言書があればそれに従って遺産を分配し、なければ相続人同士が遺産分割協議を行って相続財産の分配方法を決めるのが一般的です。

相続開始から、実際に遺産を相続人で分けるまでの流れを見ていきましょう。

遺言書の有無を確認

遺言書とは、遺産の分配方法のほか、第三者に対する贈与(遺贈)、認知などに関する被相続人の意思を書き残す書面です。遺言書は法律に定められた形式で作成しなければならず、有効に作成された遺言書には法的な効力があります。

遺言書が存在する場合には、それに従うのが原則です。また遺言書通りに財産を分配する場合でも、その手続きが法律に定められており、公正証書遺言や法務局で保管された自筆証書遺言以外は裁判所で「検認」という手続きを経なければなりません。

このため相続が発生した場合には、まず遺言書の有無を確認しなければならないのです。

相続人の調査

誰が相続人になるかを決める「相続順位」は、民法第886〜890条に定められています。この相続順位に従って、誰が相続人にあたるかを調査しなければなりません。

父親が亡くなって母親と子どもだけが相続人になることが明白であったとしても、例えば「亡くなった父親に隠し子がいた」という可能性もゼロとは証明できません。

このため被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得して、相続人を1人残らず確認しなければならないのです。

相続順位とは?

民法では、配偶者は常に相続人となる立場とし、それ以外の相続人を「子」「父母などの直系尊属」「兄弟姉妹」という順で定めています。つまり、「配偶者と子」「配偶者と被相続人の親」など、配偶者と先順位の人が相続人になる決まりです。

配偶者がいない場合には、「子どもだけ」「親だけ」「兄弟・姉妹だけ」が相続人になる仕組みで、先順位の人が相続人になった場合は、それ以降の順位の人は相続人にはなりません。

e-Gov法令検索:民法第886〜900条

相続財産調査・財産目録の作成

相続人の調査と並行して、被相続人が残した財産をくまなく調査します。

相続では、資産だけでなく「被相続人が負っていた借金を返済する義務」なども受け継ぎます。このため現預金や不動産などの資産だけでなく、借金や保証債務などの負債もすべて調査しなければなりません。

仮に資産より負債の方が多ければ、相続放棄なども検討しなければならないからです。

プラスの財産(資産)の例
現金 預貯金 不動産 自動車 株式 債権 保険 電子マネー FX 仮想通貨 貴金属 美術品 家具・家電類
マイナスの財産(負債)の例
借入金 分割払い・リボ払い 保証債務 未払い公租公課

遺産分割協議

遺産分割協議とは、相続財産の分け方を決める相続人同士の話し合いです。必ずしも一堂に会する必要はないですが、書面上であっても電話であっても、すべての相続人が参加しなければなりません。

相続人が1人でも参加していなければ、その遺産分割協議は無効です。このため前述した相続人の調査が非常に重要といえるのです。

遺産分割協議書の作成

遺産分割協議で決めた分割方法は、書面を作成して残さなければなりません。この書面が遺産分割協議書です。

遺産分割協議書には、「相続人全員が合意した証拠を残すこと」「合意した分割方法を第三者に示すこと」という2つの目的があります。

例えば相続人の1人が不動産を相続することを決めたとしても、それを記した遺産分割協議書がなければ所有権移転登記ができません。

遺産分割を円滑に進めるコツ

遺産分割を行う際には、法に定められたルールを守ることはもちろん、協議を円滑に進めるためのポイントを抑えておかなければなりません。

特に注意すべき点を列記します。

必ず全員が参加する

遺産分割協議は必ず全員が参加する必要があります。仮に音信不通になっている相続人がいたとしても、何らかの手段で連絡を取って話し合いに参加してもらわなければなりません。

遠方にいて協議の場を設けることが難しい場合には、遺産分割案をまとめた書面を作成し、それを全相続人に配布して意見を求めるなどの方法も有効です。

手紙やメールなどで合意を得た場合でも、その協議は有効に成立します。

生前贈与などを考慮する

遺産分割の基準となるのは法定相続分ですが、この際に相続財産だけに着目するのはトラブルを招く原因となりがちです。例えば相続人の1人が生前贈与を受けていた場合などには、その金額を考慮して分配額を決めるのも有効な方法といえます。

相続人が兄と弟の2人で、兄だけがマイホームの購入資金として贈与を受けていた場面を想定してみましょう。この場合に遺産を2分割すれば、弟は不公平感を覚えるかもしれません。

弟が先に兄が受けた生前贈与と同額を受け取ったうえで、残りを2等分する分配方法の方が、むしろ公平とといえます。

また相続税の申告においても、死亡日から7年間以内に受けた生前贈与は相続財産に加算することとしています。ただしこれは2024年1月からの仕組みで、2023年12月以前に受けた贈与に関しては、加算される期間は3年間です。

2024年以降に受けた贈与から、段階的に1年ずつ期間が延長されていきます。

不動産の評価額に注意する

現金や預金のように価値が明確なものはそのまま分割すればよいですが、不動産のように価格が決められていない財産も意見の相違が生じがちです。

相続税の課税対象としての不動産の評価には「相続税路線価」が用いられますが、これは市場価値とは基本的に一致しません。路線価の水準が「公示価格の8割程度」に抑えられているからです。

このため不動産を取得する相続人が想定している不動産価格と、それ以外の相続人の認識に大きな差が生じる可能性が否めません。

このような価値が明確でない財産を分割する際には、まずは評価額の算出の方法から話し合う必要があるのです。

遺言書に従わない分割も認められる

遺言書がある場合には遺言書どおりに遺産を分割するのが原則ですが、相続人全員の合意があればそれ以外の分け方をしても問題ありません。

例えば相続人のうち1人に全財産を相続させる旨の遺言があり、相続財産の受取人に指定された本人も含めた全員がその遺言に納得できないのであれば、遺産分割協議で分割方法を決めることも可能です。

ただし「遺産分割を禁止する」との遺言があった場合には、相続開始のときから最長で5年間は遺産分割ができません。

未成年者や認知症の方には代理人を立てる

遺産分割協議は相続財産に関する権利や義務を定める契約の一種と考えられるため、法律行為が制限される方が単独で参加したとしても、その協議は有効に成立しません。

具体的には、未成年者や認知症などで判断能力が不十分と考えられる方が該当し、この場合には代理人を立てる必要があります。

また、未成年者の法定代理人は親とされていますが、親と子との双方が相続人となっている場合には、親は代理人にはなれません。財産を分け合う以上、そこには利害対立の関係が生じるからです。

この場合には家庭裁判所に対して、特別代理人の選任を申し立てます。

遺産分割の期限

遺産分割には、法律上の期限はありません。仮に放置したとしても、それだけで直ちにペナルティが生じたりはしないのです。

しかし相続手続きの中には、法律上の期限が定められ、放置すると大きなデメリットが生じるものがいくつか存在します。

相続手続きの中でも、とりわけ重要な意味を持つ期限を認識しておきましょう。

相続放棄の期限は3カ月

被相続人が多額の借金を残していた場合など、遺産を引き継ぐことで相続人に損害が生じるケースもあり得ます。これを回避する手段が相続放棄です。

相続放棄には「相続開始を知ったときから3カ月以内」という期限が定められており、これを過ぎると相続放棄が認められなくなる「法定単純承認」が成立します。

相続を承認するか放棄するかの選択は、相続財産の内容が明確でなければ判断できません。3カ月という期限以前に、相続財産の調査が完了していなければならないことを意味しています。

相続税申告の期限は10カ月

相続税の申告は、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内」とされています。相続税は相続人が受け取った財産に応じて申告しなければならないため、これが遺産分割の期限の目安ともいえるでしょう。

しかし現実的には、遺産分割協議が申告までにまとまらない可能性も否定できません。この場合には、法定相続分通りに相続したと仮定して申告したうえで、遺産分割協議が整った後に修正申告や還付の手続きをします。

また相続税には申告によって税が軽減される特例がいくつかありますが、申告期限内に一定の手続きをしなければこれらの制度の適用も受けられません。

相続登記の期限は3年

2024年4月から、相続や遺贈で不動産を取得した場合の所有権移転登記が義務化されます。

相続によって所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならず、「正当な理由なく怠った場合には10万円以下の過料」という罰則規定も設けられています。

登記の義務を負うのは遺産分割協議などを経て不動産を取得した相続人ですが、協議が難航したなどの理由で期限内に不動産の取得者を特定できない可能性もあるしょう。

この場合は「相続人申告登記」という手続きで、「相続で所有者が相続人に変わること」だけを申請する必要があります。

手続きに不安を感じたら専門家へ

相続手続きを進めるうえでは、かなり専門的な法律の知識を必要とする場面が少なからず生じます。手続きに不安を感じたら、専門家へ相談することも検討しましょう。

相続の相談に応じてくれるのは、弁護士や司法書士、税理士、行政書士の4士業です。それぞれ専門分野が異なりますから、遺産分割のトラブルならば弁護士、相続登記は司法書士、相続税申告は税理士、書面作成は行政書士といった基準で選ぶとよいでしょう。

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