2024年3月28日
多法人スキームって何?
多法人スキームという言葉をご存じでしょうか。あまり聞き慣れないワードですが、多法人スキームとは不動産投資における投資手法の一種で、複数の物件を購入するごとに異なる金融機関で法人を設立し、融資を受ける方法です。この記事では、多法人スキームとは何かを解説するとともに、多法人スキームのメリットや負の側面について解説していきます。
この記事でわかること
- 多法人スキームの全体像を解説します
- 多法人スキームのメリット・デメリットは何でしょうか?
- 多法人スキームは「詐欺罪」になる?銀行にバレるとどうなるのでしょうか?
- 実際に多法人スキームはやるべきでしょうか?やらないべきでしょうか?
多法人スキームの概要
多法人スキームという言葉を初めて聞いたという方に向け、ここでは次の3点を解説します。
- 多法人スキームとは
- 個人事業主から法人化した場合のメリット
- 多法人スキームのメリット
まずは 多法人スキームの全体像や、どのようなメリットがある手法なのかについて、理解していきましょう。
多法人スキームとは
多法人スキームとは、不動産投資手法の一種で、複数の不動産物件を購入する際、融資を受ける銀行ごとに法人を設立するスキームのことを言います。多法人スキームのほかに、「1法人1物件スキーム」などとも言われています。
多法人スキームの関係性を簡単に表すと、次のようになります。
・A不動産物件-A法人-A銀行 ・B不動産物件-B法人-B銀行 ・C不動産物件-C法人-C銀行 ・D不動産物件-D法人-D銀行 ・E不動産物件-E法人-E銀行 |
ここでポイントになるのは、それぞれの金融機関から融資を受ける際に、他の不動産を所有していることも、他の金融機関から融資を受けていることも隠すことです。というのは、個人が複数の物件でアパートローンを利用すると負債額が大きくなりすぎてしまい、新たな借入審査が通りづらくなってしまうからです。
多法人スキームによって、新規の物件購入をするハードルは低くなりますが、他の銀行から融資を受けていることが発覚すると、一括返済を求められるなどのリスクがあります。
個人事業主から法人化した場合のメリット
「多法人スキームのメリット」を解説する前に、「個人事業主から法人化した場合のメリット」を先に解説しましょう。個人事業主から法人化した場合のメリットには、主に次の3つが挙げられます。
①融資を受けやすい
1つ目のメリットとして、融資を受けやすいことが挙げられます。会社を設立すると、法人登記をする必要があることや会社法などの法律に基づいて運営しなければならないことから、社会的な信用が高くなります。そのため、個人事業主よりも法人のほうが融資を受けやすくなるのです。
②経費を計上しやすい
法人には、個人事業主よりも経費を計上しやすいというメリットがあります。
事業を行う上で個人事業主が経費を計上することはもちろん認められていますが、法人の方がより経費計上できる範囲が広くなっています。例えば、個人事業主は生命保険料が所得控除されるのに対し、法人は生命保険料の全額を経費として計上が可能、などです。
③節税しやすい
個人事業主から法人化することで経費を計上しやすくなる、つまり節税しやすくなるというメリットもあります。
また、課せられる税金が個人事業主の「所得税」から「法人税」に変わるため、一定の所得金額を超えると、法人の方が最大税率が低くなります。
・個人事業主(所得税)の最大税率:45% ・法人(法人税)の最大税率:23.4% |
日本では所得金額によって税率が異なる「累進課税制度」を採用しており、所得金額が900万円以上になると、所得税率が23%から33%へ10%引き上がります。このことから、所得金額900万円以上となると、大きな節税効果を得られるようです。
多法人スキームのメリット
多法人スキームの手法では、法人名義で銀行に融資を申し込みます。
1つの個人事業主や1つの法人での借入には限度がありますが、法人を設立すればそのたびに融資枠が設定されるため、審査が通りやすくなります。つまり、個人として高い資金力が無くても、効率的に資産を増大させることが可能です。
これが、多法人スキームのメリットであり、本質です。
多法人スキームは「融資詐欺」?
先述の通り、多法人スキームは他の不動産物件を持っていることや他の金融機関で融資を受けていることを隠し、新規の融資申込みに見せかけます。
金融機関からの「他に債務がありますか?」「他に法人がありますか?」という質問に対し、当然「ない」と答えなくてはなりません。無事に融資を受けることができれば、多法人スキームは成立します。
ただし、銀行に嘘をついたことがバレれば「融資詐欺」となり、詐欺罪に問われる可能性があります。金融機関からこれらの質問がされなかったらいい、というわけではありません。
多法人スキームは、2015年頃に流行した不動産投資手法ですが、その当時は多法人スキームを見破られることは少なかったようです。
しかし、多法人スキームの手法が広く知られるようになって、金融機関も対策を講じるようになっています。提出資料から法人について細かく確認することはもちろん、最近ではマイナンバー制度の紐づけによって法人の存在が隠蔽できないようになってきました。
金融機関同士の情報連携が強化されたこともあり、多法人スキームはほとんど見破られるものと考えておきましょう。
多法人スキームが銀行にバレると一括返済を求められる?
では、多法人スキームが見破られると、どうなるのでしょうか。
多法人スキームが金融機関にバレると、一括返済を求められる可能性が高くなります。融資を申し込む際、保有資産や他の借入について「虚偽の申告をした」とみなされるためです。
他にも、
- 融資を中止された
- 金利を引き上げられた
などの対応をされた事例もあるようです。いずれにしても、多法人スキームがバレて、銀行からこのような対応を取られると、不動産投資自体が成り立たなくなるため、投資家は大変な思いをすることになるでしょう。
万が一このような事態に陥った場合、不動産投資家はどのような対応を迫られるのでしょうか。実際の例を見てみると、不動産物件を売却して、銀行からの借入れを返済することがほとんどのようです。つまり、差し押さえや裁判に至る例は少ないということです。
2017年に発生したスルガ銀行の不正融資問題をきっかけに、不正融資には金融庁も目を光らせています。各金融機関は以前にも増して、不正融資には厳しく対処している傾向にあります。
多法人スキームをやるべき?やらないべき?
多法人スキームについて、メリットや負の側面を解説してきましたが、多法人スキームはやるべきでしょうか、やらないべきでしょうか。
結論としては、多法人スキームはグレーゾーンであるため、おすすめできません。すんなり融資が通る可能性がある一方で、重大な損失を被る可能性が高いからです。
一般的な不動産物件であれば、1~2年程度うまく賃貸経営ができれば、手数料や税金などの初期費用くらいは回収できます。また、初期費用を回収できれば、次の不動産物件を購入するための融資を受けるのは比較的容易です。
そのため、危険を冒してまで多法人スキームに手を出さず、真っ当な不動産投資をすることをおすすめします。
まとめ
この記事では、多法人スキームとは何かを解説するとともに、多法人スキームのメリットや負の側面について解説しました。
多法人スキームとは、不動産投資手法の一種で、複数の異なる不動産物件を購入する際に融資を受ける銀行ごとに法人を設立するスキームのことを言います。この手法によって、1個人事業主では適わなかった、複数の物件所有が可能になります。
ただし、多法人スキームの負のポイントは、それぞれの銀行から融資を受ける際、他の不動産物件を所有していることも、他の銀行から融資を受けていることも隠す点です。
万が一、融資実行後にこの点を金融機関に見破られると、一括返済を求められるなどのリスクがあります。何千万円もの金額を一括返済するのは難しく、実際には不動産物件を売却して返済するケースがほとんどで、資産形成のための不動産経営が大損に転じる可能性もあります。
これらのことから、多法人スキームはグレーゾーンであるため、おすすめできません。正確に言えば、複数の法人を設立すること自体は違法ではありませんので、保有資産や他からの借入額について虚偽申告しないことがポイントです。
不動産投資についてしっかりと勉強し、真っ当な戦略で行っていきいましょう。
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