2025年1月13日
減価償却
「減価償却(げんかしょうきゃく)」とは、不動産などの資産が時間の経過や使用によって価値が減っていく分を、一定期間にわたって会計上の費用として計上する仕組みです。不動産投資においては、主に建物部分の価値が年数とともに下がっていくと考えられています。
たとえば、築年数が20年の建物でも、1年後にはより古くなるぶん価値が落ちる、というイメージです。その落ちた価値を「減価」として、毎年、少しずつ費用(減価償却費)として帳簿に反映していきます。
減価償却を行う目的
- 正しい利益を計算する
資産の購入時に一度にすべての費用として計上するのではなく、利用可能な期間に分割して費用を計上することで、実態に即した利益を計算できるようにするためです。 - 節税効果を高める
建物の価値が減少したぶんを毎年費用として計上するため、課税所得(≒利益)を圧縮しやすくなり、結果的に税負担が軽くなる可能性があります。 - 投資の計画を立てやすくする
どのくらいの期間でどれくらいの減価償却費を計上できるかを見通せると、投資による収支計画をシミュレーションしやすくなります。
減価償却の対象と耐用年数
投資用不動産で一般的に減価償却の対象となるのは「建物部分」です。土地は減価しない資産なので、原則として減価償却の対象にはなりません。
日本の税法では、建物を材質や構造によって区分し、それぞれに「法定耐用年数」というものが設定されています。たとえば、木造のアパートであればおおむね22年、鉄骨造や鉄筋コンクリート造(RC造)であれば47年など、構造によって異なる耐用年数が定められています。
中古物件の場合の耐用年数
中古の投資用不動産を取得する場合は、すでに築年数が経過しているため、新築のときの法定耐用年数をそのまま使うことはできません。
「簡便法」という計算方法により、「(法定耐用年数 - 経過年数) × 0.2」によって求めるなど、別の計算方法で耐用年数を定めます。ただし計算方法は物件や状況によって異なる場合があるため、詳しくは税理士などにご相談ください。
耐用年数についてはこちらの記事も参考にしてください。
減価償却の計算方法
大まかに「定額法」と「定率法」の2つの方法があります。現在は「定額法」が原則とされており、一定の年数で均等に費用化していくイメージになります。
定額法の計算イメージ
建物にかかった費用を法定耐用年数で割り、毎年同じ金額を経費として計上します。
減価償却を考慮した投資メリット
- 安定したキャッシュフロー
減価償却費は実際の現金支出を伴わない費用なので、家賃収入でプラスになった部分を適切に圧縮して税負担を軽減できます。その結果、手元に残るキャッシュフローが増えやすくなるメリットがあります。 - 中古物件の節税効果
前述のように中古物件を取得した際、法定耐用年数が短くなることがあり、短い期間で多くの減価償却費を計上できるケースがあります。結果的に早期に節税効果が得られる可能性もあります。 - 資産の買い替え・追加投資がしやすい
減価償却によって税負担を抑えることで、手元に現金を残しながらローン返済や追加投資がしやすくなります。長期的な資産形成の戦略も立てやすくなるでしょう。
注意点
- 土地や設備・外構などの区分
建物の付帯設備や外構工事部分にもそれぞれ別の耐用年数があり、区分して計上する必要があります。また、土地は減価償却できないため、建物と土地をしっかり分けて取得価格を計算しなければなりません。 - 勘定科目や経理処理の手間
建物や設備ごとに「建物」「構築物」「器具備品」など正しい科目分けをして費用計上する必要があります。税務申告の際に誤りがあると修正申告や追徴課税が発生する可能性があるため、専門家への確認がおすすめです。 - 売却時に生じる税金への考慮
長期的に減価償却をした結果、帳簿上の建物価値が下がった状態で売却すると、売却益が大きく算出され、譲渡所得税(キャピタルゲイン課税)が高額になる場合があります。売却時の税金も考慮しながら投資シミュレーションを行うことが大切です。
減価償却によくある誤解
- 土地も減価償却できると思ってしまう
前回の記事で解説したとおり、土地は時間の経過によって価値が減るとはみなされないため、減価償却の対象外です。建物や設備とは区分して考えましょう。 - 減価償却費は「支出がないのに経費を作れるラッキーな仕組み」だけだと思う
確かに、家賃収入を得ても「経費を増やす形」で節税ができるのが減価償却の特徴の一つです。しかし、その分、将来売却する際に「帳簿上の建物の価値が下がっている→売却益が大きくなる」可能性があることも理解する必要があります。 - 耐用年数が過ぎても減価償却できると思い込む
原則として、法定耐用年数を経過すると減価償却費は計上できなくなります(一定の追加償却が認められるケースはありますが、通常は耐用年数が終わると経費としての減価償却費はなくなります)。 - 中古物件ならいつでも耐用年数が大幅に短くなると思う
中古物件の耐用年数は「簡便法」などで計算しますが、一律に短くなるわけではありません。築年数がかなり経っている物件でも、条件によっては大きく短くならない場合もあります。 - 修繕費と減価償却の区分が曖昧になりがち
建物の一部を修理したり、設備を交換したりする場合、それが「修繕費」になるのか「資本的支出(減価償却対象)」になるのかで、経費計上のタイミングが変わります。判断が難しい部分もあるため、税理士などの専門家に確認するのがおすすめです。
減価償却を理解するためのQ&A
Q1. 「土地も減価償却するの?」
A. いいえ、土地は減価償却の対象外です。土地は時間の経過や使用によって価値が減らないと考えられており、法律上も減価償却できません。不動産を購入した際は、「土地」と「建物」を明確に区分しておく必要があります。
Q2. 「耐用年数が終わったら、もう節税はできないの?」
A. 原則として、法定耐用年数が終了した建物に対しては、通常の減価償却費を計上することはできません。ただし、場合によっては耐用年数を延長したり、追加償却が認められたりすることもありますが、一般的には法定耐用年数終了後の減価償却は行わないのが基本です。
Q3. 「中古物件は耐用年数が短いから、いつでも大幅に節税できるって本当?」
A. 一概に「大幅に節税」できるとは限りません。築年数が相当経過していれば、簡便法等により耐用年数が短くなるケースは多いですが、一律で大きく短くなるわけではありません。物件の状態や経過年数、構造によって計算方法が異なるため、事前に税理士などに確認してシミュレーションをすることが重要です。
Q4. 「減価償却費は“実際にお金が出ていかない”のに経費になるのは、なぜ?」
A. 購入時に支出した建物代を、法定耐用年数にわたって分割計上しているからです。本来は建物の代金として既に現金が出ているため、「その資産の価値が毎年減っている分」を少しずつ経費に計上するイメージです。これが実際にキャッシュアウトしない費用となる理由です。
Q5. 「修繕やリフォーム費用も減価償却すればいいの?」
A. 修繕・リフォーム費用が「資本的支出」なのか「修繕費」なのかで扱いが変わります。建物の価値を高めるような大規模リフォームなどは資本的支出とみなされ、減価償却の対象となります。一方、日常的な修理・修繕の範囲であれば修繕費となり、かかった年度に一括で経費計上できます。判断はケースバイケースなので、税理士などに確認しましょう。
Q6. 「減価償却をしっかり取っていると、売却時に損するって聞いたけど?」
A. 減価償却によって帳簿上の建物価値が下がると、売却益が大きくなる可能性はあります。売却益が大きいほど譲渡所得税が増えるため、一時的な課税が高くなる点は注意しなければなりません。ただし、長期的に見れば、減価償却を活用して運用期間中のキャッシュフローを安定させ、資金を効率的に活用するメリットの方が大きいケースもあります。売却時だけでなく、運用全体のスキームで考えるとよいでしょう。
まとめ
減価償却は、不動産投資における大切なポイントのひとつです。正しい知識を持つことで、毎年の税負担を抑えながら、安定的なキャッシュフローの確保や将来の投資戦略を組み立てることができます。一方で、中古物件を含む様々なケースで計算方法や耐用年数が変わるため、具体的な計画を立てる際には税理士など専門家のサポートを受けることをおすすめします。
不動産投資を成功に導くためには、キャッシュフローの計算だけでなく、物件選びや運用計画、将来的な売却までを含めて総合的に検討することが重要です。その中で、減価償却の制度を正しく理解し、活用することが利益最大化への近道になるでしょう。
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